愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「嫌なの?家に帰るの」
相手をじっと観察しながら。
少しの変化も見逃さない。
私の言葉に瀬野はピクッと反応を示した。
「嫌って言ったら?」
けれどそれ以上の変化は見せない。
今度は質問を返されてしまう。
「その理由を聞くかな」
「簡単に教えると思う?」
弱味を見せない瀬野は、普段からそうなのだろうか。
だとしたら一筋縄ではいかない。
「私と同じなのかなって」
だったらこちらから弱さを見せればいいのではと。
同情して、彼も口を開くかもしれないと。
「同じって?」
「瀬野も両親がいないのかもって」
「まぁ、いないようなものだね」
瀬野は決して表情を変えず、冷静な返しをしたけれど。
その瞳に光は宿っておらず、闇が深く思えた。
思わず身震いする。
“いないようなもの”
つまりは存在する。
ただ瀬野は───
自分の両親を“両親”だと思っていない。