愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「いいなぁ、背が高いって」
「確かに背がある方が男らしいかも」
先ほどまで沈黙だったとは思えないほど、私たちは自然に会話をしていた。
「私もあと少し背が欲しかったな」
「けど川上さん、そこそこ身長あるよね」
「160ちょっとだから、まだ小さい方だよ」
別にモデルとかになりたいわけじゃないけれど、背が高くて綺麗な女の人には憧れる。
「まだ伸びたいんだね」
「もちろん!瀬野くんの身長が欲しいくらい」
これで沈黙は完全に破られ、気まずい空気もなくなった。
そこから私は日常会話に持ち込み、なんとか打ち解けることに成功した。
もともと瀬野自身がフレンドリーで話しやすい相手のため、気まずい空気になる方がおかしかったのだ。
「あっ、そういえば瀬野くんって夜ご飯食べた?」
あくまで自然に。
日常会話からずれた質問に触れる。
「……うん、食べた後だよ」
その少しの間が嘘であることを語っていた。
気を遣ってのことだろう。