失った恋と捜し続ける恋、背中合わせの夜
名古屋駅前に高くそびえ立つビル。
その高層階の一角にあるオフィス。
あたしは自動車部品関連の会社で経理業務に就いている。
「もうすぐ決算だ。みんな、心して業務にあたるように。」
冷静沈着な中原課長。
ノンフレーム眼鏡が似合うスマートな顔立ち。
現在も休日にはバスケの試合に出るスポーツマン。
何をやらせても器用にこなすと周りからも信頼が厚い。
「氷室、ここ、修正かけてくれて助かった。」
『はい。また、何かありましたらいつでも対応します。』
あたしももちろん信頼している。
いや、信頼していた。
「中原課長。奥さん、妊娠されたんですってね。」
同僚の島田からのこの一言を聞くまでは。
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