失った恋と捜し続ける恋、背中合わせの夜
今日まですれ違ったことすらない男
豪雨の中、素性も知らないのに、絶対服従勧告しながら拾ってしまった男
それなのに
無理やり引っ張られたラブホテルの脱衣所で
あたしの肩にそっとバスタオルをかけてくれた男
ジャグジーバスの中で滑りかけたあたしを
心配しながらスマートにお姫様抱っこで湯舟に浸からせてくれた男
湯舟の中でも恥ずかしいと呟いたあたしに気を遣って背中合わせの格好をとってくれた男
平気で不倫していたサイテーな女が
拾っちゃいけなかった物件・・・極甘、極上かもしれない男
そんな男が垣間見せた、兄妹という影
『もし、抱いて欲しいって言ったら・・・』
「・・・お望みどおりにするかもしれません。」
『なんで?・・・なんであたしなんかを?』
「俺が犯しそうな過ちを、止めてくれそうだから・・・」
見ず知らずの、しかもサイテーな女の前でも極甘、極上な存在でいてくれる理由が見えてしまった気がした。
どういう形かはわからないけれど
兄妹という関係
それがきっと彼を追い込んでいる
しかも
ズブ濡れで空を見上げるぐらい切なさを孕んで・・・
彼のそんな夜
そして
信じていた相手に裏切られていることを知ったあたしのこんな夜
豪雨の中、出逢ってしまったふたりの夜が
背中合わせでぴったりと重なった気がした。
『じゃあ、今夜だけ、傍にいて。』
「絶対服従、やめます。」
『・・・さすがに、無理だよね。聞かなかったこ』
「自分の意思で、今夜は・・・ここに居たいです。」
今日、失ってしまった恋に傷ついたばかりのあたしと
今日、ズブ濡れになってまで自分を追い込んでいるような彼
どうやら共依存状態のあたしたちは
お互いが傷ついているココロにそっと絆創膏を貼るように
ジャグジーバスの中で緩く抱き合い始めた。