失った恋と捜し続ける恋、背中合わせの夜
これまで藤崎と抱き合ったこともなければ
キスしたこともない
藤崎という男は
あたしが仕事で失敗した時
缶コーヒーを手渡しながら、次だぞって励ましてくれる男
あたしが財布を忘れた時は
あたしに内緒でコンビニでサンドイッチを買ってきてくれて
俺、食べきれないからお前、食えって優しい嘘をつく男
職場の飲み会であたしが泥酔しても
あたしの自宅のベッドまで送り届けて
その後、すぐに玄関の鍵を閉めてそれをポストに投函して帰ってくれるような
下心を出さない男だった
そんな男が今
そっと触れたり
軽く甘噛みして焦らしたり
しばらくくっつけてみたり
少しずつズラして角度を変えてみたり
いろいろな顔を持つ
そんなキスをし続けている
昨日、あなしの中で足りなかった感覚の1ピースを埋めるような
そんなキスを
あたしの守備範囲外のこの藤崎がしてくるなんて
思ってもみなかった
『苦しい・・・』
「ごめん、やりすぎた?」
「そんなことない。苦しいのはココロ。」
「俺じゃダメだった?」
あたしの守備範囲外だったことを藤崎自身が自覚していたような、
自信がなさげな藤崎からのその問いかけ。