失った恋と捜し続ける恋、背中合わせの夜
それから随分経ったある日曜日。
「ママー。この人、この前、ウチの学校の保健講話で話をしてくれたお医者さんだ!」
中学1年生の娘である芽衣が新聞記事を握りしめてあたしに近寄ってきた。
『へえ、新聞に載るような人が学校に来たんだね。見せて。』
「はいっ!パパはそのトースト、あたし分けて!」
「しょうがないな。ジャム、もっと載せてやる?」
朝食中に新聞記事とトーストが行き交う我が家の平和な日曜日。
だったはずなのに・・・
『あっ、この人・・・・』
「ママ、知ってるの?この先生、ホントカッコいいよね。周りの同級生の男が幼稚園児に見えるぐらい大人の男でさ~・・・今度、この病院、行ってみたい!!!!予防接種しなきゃいけないし。」
記事を覗き込んではしゃぐ娘と絶句してしまったあたしの異変を見逃さなかった夫があたしの手から新聞を奪い取る。
「ああ~!!!!こいつう~」
「パパも知ってるの?」
「知ってるもなにも・・・最後までは食っていないから安心して下さいって・・」
「なんのこと?トースト?」
「芽衣、ダメだぞ。この男は。大人しそうな顔して、がつがつ食ってるからな。こういう男は絶対ダメだからな。芽衣までこんなやつを連れてきたら、ウチの敷居を跨がせないからな!」
「えっ~女子みんな、食べられたいって言ってた!!! この先生ならいいって・・」
どうやら噛み合っていなさそうで噛み合い始めている夫と娘の会話から
あたしの、もしかしてという仮定が現実であることに気がついた。