失った恋と捜し続ける恋、背中合わせの夜
とうとう選んだ部屋の前に着いた。
躊躇うことなく中に入ろうとするあたしに抵抗するかと思ったらそうでもないこの男。
どうせもうあたしには守るものなんかない
不倫してあっさり捨てられたんだし
だから何があってももういいや
『さ、こっち!』
「・・・風呂ですか?」
『なによ。文句ある?』
ようやくまともな会話ができるようになってきたけど
あたしたち初対面。
それなのにお風呂の話。
普通ならあり得ないけど
ましてや勢いでここまで来てしまったけれど
この時のあたしたちは
「体、冷えちゃいますから、先に入って下さい。」
『えっ、あたしが先?』
予想外のジェントルマン発言をするこの男と
お風呂に入る順番で気を遣う不思議な会話をしていた。