訳あり冷徹社長はただの優男でした
すずを預けたことでとりあえずはいつも通りの生活になったと思っていた。

なのに、どうにも気になって仕方ない。

ちゃんと泣き止んだかな?
ご飯食べてるかな?
すずの好きなおもちゃあるのかな?

頭の中はすずのことでいっぱいだ。

一方で、なぜ私がこんな目にあわなければいけないのかと怒りもわいてくる。

たまたまかかってきた内線電話を乱暴に取って受け答えをしていると、相手側から「怒ってます?」と聞かれてしまった。

あなたのことは怒っていない。
だけど怒りでいっぱいです。

そんなことを言えるわけもなく、適当にやり過ごして静かに受話器を置いた。
勝手にため息が出てしまう。

「橋本さん、今日残業できる?」

ふいに上司に話しかけられ、咄嗟に「はい」と返事をしたが、すずのお迎えがあることを思い出して慌てて訂正する。

「すみません、今日はちょっと無理です。用事があって…。」

「そうか、じゃあ仕方ないな。」

「すみません…。」

上司は軽く手を振りながら、いいよいいよと言ってくれた。
でも私は申し訳ない気持ちと悔しい気持ちで胸がズキズキとした。
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