訳あり冷徹社長はただの優男でした
未来
何だかずっと、この生活が続いて行くんじゃないかと錯覚を覚えた頃だった。

いよいよ姉が上手くしゃべれないどころかほとんど寝たきり状態になったのだ。といっても意思はあるようで、何かしら伝えようとしてくる。手も動かすがその動きはとても心もとない。少し震えていて、見ているこちらの胸が痛む。
滑舌が上手くいかなくてあうあう言ってて何だかわからないけど、美咲と呼んでいるのはわかった。

「なあに?どうしたの?」

私は姉の口元に耳を近づけた。

「…あ、い、あ、お。」

小さくて消えてしまいそうで、すずの言葉よりも聞き取りが難しかったけれど、確実にそれは「ありがとう」と言っていた。

「…私のお姉ちゃんなんだから、あたりまえのことしてるだけでしょ。気にしないで。」

そうは言っても私の胸はぎゅうぎゅうと締めつけられる。同時に目頭が熱くなったけど、必死に堪えた。泣くところではない。姉はこんなにも頑張っているのだから。

すずは一人とりとめのない話をして、ママが相槌を打たなくてもまったくめげない。
姉は、私とすずのやり取りをぼんやりと見ているようなそうでもないような、そんな不思議な時間を過ごしていた。

柴原さんが顔を出し、院内に蛍の光も流れ出した。面会時間の終わりだ。

「さあ、もう寝なよー。また明日来るからね。」

「ママ、おやちゅみー。バイバイ、たーっち!」

いつものように私たちは病室を後にした。

それが最後になるとは思ってもみなかった。
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