訳あり冷徹社長はただの優男でした
未だプリプリ怒ってそっぽを向く私に、柴原さんは覗き込んで言う。

「で、美咲は?」

「え?何?」

「美咲は俺のことどう思ってるの?なんか俺ばかり美咲が好きみたいで一方通行なんだよね。」

「えっ…。あの、その、えっと、」

「うん?」

「…好き。」

ボソリと呟くと、柴原さんがくしゃっと笑った。その笑顔に心臓かドキリと反応する。

「よかった。」

柴原さんの大きくて温かい手が私の頬を優しく包んだ。
近づいてくる距離感に自然と目を閉じる。
柔らかな感触と共に、一気に満たされた気がした。

私、柴原さんとキスをしてしまったらしい。

後から追いつく思考に、私は苦笑いする。

「あー!すずも、すずもっ!」

いつの間にか起きていたすずが、私たちによじ登りながら口をタコのようにさせている。

「すずもちゅーする!」

躊躇いもなく口に出されると恥ずかしさが込み上げてくる。まさかすずに見られているとは思わなかった。

「すずにはほっぺ。」

柴原さんが屈んですずの頬にキスをした。

「じゃあねえねはこっちから。」

すずを挟むように、私と柴原さんは両側からすずの頬にキスをする。
すずは、キャーと嬉しい悲鳴を上げてもういっかいとせがんでくる。
私と柴原さんは顔を見合わせてクスクスと笑った。
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