訳あり冷徹社長はただの優男でした
当然のことながらフルタイムで働く私は何と言っても時間がない。
保育園も一番早く来て一番遅く帰るという日々を過ごしていた。
自分の時間なんてまったくない。
キャリアウーマンまっしぐらな私の生活は、脆くも崩れ去っていた。

「橋本さん、保育園?から電話だけど。」

「え?あ、すみません、ありがとうございます。」

外線電話を取り次いでくれた先輩社員の武藤さんが不思議そうな顔をする。
私と保育園が結び付かないのだろう。
そりゃそうだよね、私は独身だし、今の状況について結局のところまだ会社には言っていないのだから。

電話を取るとやはり保育園からで、すずが熱を出したから迎えに来てほしいということだった。

この中途半端な時間に、どう理由をつけて帰ればいいのだろう。
それにお熱ということは、もしかしたら明日は会社を休まなければいけないかもしれない。
思いきって上司に言うべきだろうか。
でももし理解を得られなかったらどうしよう。

「橋本さん、電話保育園から?どうしたの?子どもいたっけ?」

先ほど電話を取り次いでくれた武藤さんが興味津々とばかりに尋ねてきて、私は気が遠くなった。

どうしようとか考えている場合ではなく、もう半分バレているようなものだ。
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