訳あり冷徹社長はただの優男でした
たまった仕事はきつかった。
別に難しい仕事ではないけど量が多く、目が回る忙しさだ。
残業ができないこともあって、お昼休みもそこそこに私は昨日の分を取り戻すかのようにがむしゃらに仕事をした。

集中して仕事をしていると、日々の生活の忙しさはどこかへ飛んでいってしまう。むしろバリバリ仕事をこなす自分に、本来の姿を取り戻せたかのようだった。

あっという間に終業時刻になり、お迎えのためにささっと会社を出た。
集中したこともあり昨日の分はなんとか取り戻せた感じだ。疲れが押し寄せてきたが休んでいる場合ではない。相変わらず抱っこ魔のすずを 抱えて私は電車を降りた。

駅からアパートまでは緩やかな上り坂になっている。疲労感ですずを抱っこしているのがつらく、途中下ろしてみるも、すずはすぐに抱っこをせがんできた。

私が抱っこしてほしいくらいだ。

ようやくアパートの階段に足を掛けたとき、突然目の前がクラクラした。
本能的にヤバイとわかる。
私、このまま倒れるかも。

遠退きそうになる意識の中、ひっしにもがいた。

今私が倒れたらすずはどうなる?
まだごはんも食べさせてないし、お風呂も入れなくちゃ。
倒れるわけにはいかないっ。

「ねえね?」

私はポケットからスマホを取り出した。
誰か助けてくれる人。
誰か、誰か…。

私の意識はぷっつりと遠退いていた。
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