訳あり冷徹社長はただの優男でした
先生に抱っこされたすずとバイバイをする。

「じゃあね、すず、いってきます。」

「やだー!すずもおそといくー!」

「はーい、すずちゃん、パパとママにいってらっしゃーいだよー。」

泣きわめくすずをガッチリホールドした保育士は、ニコニコしながら手を振る。すずはこちらに手を伸ばして抱っこ抱っことせがんだ。

そういうのを見ると心が痛むというか申し訳ない気持ちになってしまうけど、ここは心を鬼にして仕事に行かねばなるまい。どうせ私たちの姿が見えなくなればケロッと泣き止んで遊んでいるはずだから。

後ろ髪引かれながら後にしようとすると、何故か柴原さんがおろおろしていた。
余裕の表情は消えている。
これは前言撤回だ。

「すず、大丈夫だよ。帰りは美咲お姉ちゃんが来るからね。」

その言葉に先生が反応する。

「帰りは違う方が?」

あーもう、柴原さんったら余計なことを。
話がややこしくなるからやめてくれ。
私は慌てて訂正する。

「いえ、いつもどおり私が来ますので。じゃあお願いしまーす。」

すずに手を振りつつ、心配そうにたたずむ柴原さんを引きずるように外に出た。
すずの泣き声が聞こえて、柴原さんは殊更心配そうな顔をした。その気持ちは痛いほどよくわかる。私も最初はそうだったから。
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