訳あり冷徹社長はただの優男でした
外に出た私たちは最寄り駅まで一緒だ。
私は駅を越えたところに会社があるのでそのまま歩いて行く。柴原さんは駅から電車で三駅向こうまで行く。会社の社長だから黒塗りのハイヤーで出勤してるのかと想像していたけれど、そういうのは嫌いだそうだ。
柴原さんは案外庶民的らしい。

歩きながら、私はささっと注意事項を告げる。

「保育園の先生全員が詳しい事情を知っているわけではないので、面倒なので保育園では私はママってことにしておいてください。」

「ごめん、わかった。お迎えはすまないけどお願いします。なるべく早く帰るようにはするけど。」

「大丈夫です。柴原さんは社長さんなんですから、きちんと仕事をこなしてきてください。はい、いってらっしゃい。」

ちょうど駅前に着き、私は柴原さんの背中をドンと押して見送る。
柴原さんは一度振り替えって、手をヒラヒラと振った。

バイバイのつもりですか。

どうしようかと思ったけど、私も控えめに手を振った。なんか、恋人みたいじゃない?とか考えてしまった自分の頭を振る。

何を考えているんだ。
早く行かないと遅刻しちゃう。
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