訳あり冷徹社長はただの優男でした
すずはよく柴原さんに褒められる。
親が子を褒めるのなんて当たり前だと思う。ましてや二歳だし。
なのに私はそれを羨ましいと思って見ていた。
私には褒めてくれる人がいないからだ。

昔からそうだ。
親にも褒められた記憶がない。
どんなに頑張ったって誰も褒めてくれない。

今のこの複雑な関係性で頑張って生活していることを誰かに褒めてほしい。
だけど複雑すぎて安易に話すこともできない。
それはなんだか孤独なことだ。
すずは可愛いし柴原さんも優しいのに、私の心はモヤモヤが渦巻いていた。

ほら、今日もまた。
柴原さんがすずを可愛がる。
生き甲斐だと言う。
鼻の奥がつんとして涙が出そうになった。

私はこの先どうしたらいいのだろう。
いつまでもすずの母親代わりではいられない。
柴原さんだってずっとこのままでいいとは思っていないだろう。

先のことを考えると不安でいっぱいになる。
あんなにキャリアウーマンになると誓ったのに、今となっては戻れる気がしない。

沈んでいく気持ちを打ち払うかのように、私は天を仰いで大きく深呼吸した。

いつかは戻るときがくる。
私はこの家では他人なのだから。
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