訳あり冷徹社長はただの優男でした
「はーい、ママお仕事頑張ってねー。バイバーイ。」

にこやかに手を振る保育士の胸の中から、必死にもがいてこちらに手を伸ばし大泣きするすず。

「うわーん!ねえねー!」

すずが離れたことの安心感と、すずを預けて行くことへの罪悪感が入り交じって複雑な気持ちになった。

「お母さん、心配かもしれませんが大丈夫ですよ。初めはみんなこんなものですから。」

「あ、はい。すみません、ではお願いします。」

すずの泣き声を背中いっぱいに受けつつ、ママじゃないんだけどなと野暮なことを思いながら私は職場へと急いだ。

いつもの電車に乗ると、ほっとする。
これでいつも通りの生活になった。
とりあえず夕方までは。

たまたま座れた座席で、私は最寄り駅に着くまで爆睡していた。
相当な寝不足のようだ。
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