訳あり冷徹社長はただの優男でした
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私たちの生活は、私がすずを保育園へお迎えに行ってそのまま病院へ顔を出すという日々に変わっていった。

その頃には、元気そうに見えていた姉も夕食がほとんど食べれない状態になり、ついには個室へ移ることになった。それでも食べれるときには食べてほしいという思いから、病院には通常通りのご飯をお願いしていた。

「ママ、すずたべていい?」

すずは返事も聞かずにスプーンを手に取り食べる気満々だ。

「すずねー、おさかなすきなんだー。ほーくえんでねー、おさかなたべたんだー。」

「保育園でも今日お魚食べたの?」

「うん!」

私とすずのやりとりを、姉はぼんやりとした表情で見ていた。

最近はあまりしゃべることもなくなった。というよりきちんとしゃべれなくなってきた。いよいよ死期が近いのかもしれないと思わざるを得ない。姉自身もそう感じているのかもしれないけれど、私は努めていつも通り明るく振る舞っている。

すずはたぶん、何も分かっていない。
でもそれでいい。
今はただこの時間を大切に過ごすだけだ。

柴原さんが仕事終わりに少しだけ顔を出して、そして三人で柴原さんの運転する車で帰る。
柴原さんも、私たちに合わせて仕事をセーブしてくれているように感じる。

何も言わないけれどきっとそう。
とてもありがたくて頼もしい存在だ。
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