訳あり冷徹社長はただの優男でした
家に着くともう21時近い。
すぐにすずをお風呂に入れて寝かしつけになる。寝かしつけに一時間も二時間もかかっていた頃が懐かしいくらいに、今では三十分くらいですやすやと寝息を立ててくれるようになった。そしてその後に柴原さんと二人で軽く食事をするというのがここ二週間のルーティングになっている。

「柴原さんって晩酌したりしないの?」

「うーん、嫌いではないけど、ちょっとトラウマだよね。」

「トラウマって。」

柴原さんは眉を下げて情けない顔をする。

「また間違いを起こしたら困るだろ。」

モソモソとバツの悪そうな声で言う柴原さん。ああ、姉とすずのことかとすぐに気づいて、私はなるほどと納得した。

「お酒に飲まれるタイプなんだ?」

「そんなことないと思うけど、もう怖くて飲めないよ。」

「ふーん、でも家ならいいんじゃないの?」

特に深い意味で言ったわけではないのに、なぜか柴原さんはごふっとむせて頭を抱えながら天を仰いだ。そしてうらめしそうにこちらを見る。

「美咲サン、俺を煽るのやめてくれる?」

「は?」

意味が分からなくて私は箸が止まる。

「誘ってるの?」

「はい?いやいやいや、ちがっ!」

「いやまあ、美咲がいいなら俺は大歓迎だけどさ。」

「ちょっと、何言ってんの?バカじゃない?」

真っ赤になりながら柴原さんを罵り、私はそっぽを向いた。
大歓迎とか、ええっ、どうなのよ。

柴原さんは残念だなぁと柔らかく笑った。
くそう、大人な対応された。
これが経験の差ってやつか。
どうせ私は喪女一直線ですよーっだ。
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