ごめん。ぜんぶ、恋だった。
図書室に着いたあと、カウンターで返却された本を確認しながら一冊の本を見つめた。
その題名は【星の王子さま】。お兄ちゃんが借りた本だ。
……懐かしいな。図書室に置いてあったんだ。
寝つきが悪かった頃、お兄ちゃんがよく読み聞かせをしてくれた。
たしか内容は砂漠に不時着した操縦士の〝ぼく〟と、とある星からやってきた王子との交流が描かれている物語だ。
子供が読むには少し理解できない部分もあったけれど、私はいつもこの本を読んでとお願いしていた。
お兄ちゃんはいつも優しくて物知りで、『頭に本屋さんがあるみたい』なんて例えたこともあるくらい。
お兄ちゃんは私の自慢で、憧れだった。
ううん、だったじゃない。
きっと今も、憧れている。
「仁菜子ちゃん」
ハッと気づくと、目の前に志乃ちゃんがいた。お兄ちゃんも一緒かもしれないと思ったけれど、志乃ちゃんはひとりだった。
家で会わなければ校舎でも会わない。気にしていない時には鉢合わせすることもあったのに。
「志乃ちゃん、どうしたの?」
「今日、一緒に帰らない?」
「え、でも私委員会があるから遅いよ」
「平気。教室で課題やりながら待ってるからさ。終わる頃になったら昇降口で待ち合わせしよ」
「うん、わかった」
志乃ちゃんはそれだけを言いに来てくれたようで、そのまま図書室を出ていった。