ごめん。ぜんぶ、恋だった。
耳元で鳴っている発信音が、いつもと違う感じに聞こえるほど心臓が騒がしい。
どうせ出てくれないだろうと予想していたけれど、電話はコール音の5回目で繋がった。
『はい』
声を聞いた瞬間、お腹がぎゅっとなった。
なにを話そう。言いたいことは山ほどあるのに、一番最初に出てきた言葉は……。
「……元気?」
毎日会うことが当たり前だった。
振り向けば、姿を探せば、必ず私の近くにいる。
お兄ちゃんは私にとって、そういう存在だった。
『お前のせいで元気じゃねーよ』
そのぶっきらぼうな言い方さえ、久しぶりのような気がした。お兄ちゃんはどこかお店にいるようで、周りからは雑音が漏れていた。
「なんで私のせいの?」
素直に聞くと、お兄ちゃんが無言になった。私は急かすことはしないで返事を待つ。
「お前が……俺から離れていくから」
……ドクン。
なんて弱い声を出すんだろうか。
こんなお兄ちゃんの声を私は知らない。