ごめん。ぜんぶ、恋だった。


耳元で鳴っている発信音が、いつもと違う感じに聞こえるほど心臓が騒がしい。

どうせ出てくれないだろうと予想していたけれど、電話はコール音の5回目で繋がった。


『はい』

声を聞いた瞬間、お腹がぎゅっとなった。

なにを話そう。言いたいことは山ほどあるのに、一番最初に出てきた言葉は……。


「……元気?」

毎日会うことが当たり前だった。

振り向けば、姿を探せば、必ず私の近くにいる。

お兄ちゃんは私にとって、そういう存在だった。


『お前のせいで元気じゃねーよ』

そのぶっきらぼうな言い方さえ、久しぶりのような気がした。お兄ちゃんはどこかお店にいるようで、周りからは雑音が漏れていた。


「なんで私のせいの?」

素直に聞くと、お兄ちゃんが無言になった。私は急かすことはしないで返事を待つ。


「お前が……俺から離れていくから」


……ドクン。

なんて弱い声を出すんだろうか。

こんなお兄ちゃんの声を私は知らない。

< 111 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop