ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「あのさ、ひとつ教えといてあげるけど、仁菜子ちゃん速水くんと付き合ってないよ」
「え?」
「ふり、だってさ」
……ふり?
なんでそんなことを……。いや、俺がわかりやすく仁菜に迫ったりしたから、きっと仁菜なりに予防線を張ったのだと思う。
「そんなこと俺に教えていいわけ?お前は仁菜の味方だと思ってたよ」
ふたりが付き合っていなかったことには安心したけれど、だからってなにかが変わるわけじゃない。
おそらく速水は仁菜に想いを寄せているだろうし、仁菜だってそれに対して悪い気はしない。
俺という弊害がなければ、あのふたりがすでにくっついていても不思議なことじゃないんだ。
「私は仁菜子ちゃんの味方でも柊の味方でもない。自分の味方なのよ」
志乃が突っついていた氷が、カランと音を立てて崩れた。
――『帰ってきてよ、お兄ちゃん』
もう子供扱いできないくらい、仁菜は大人の階段を上ろうとしている。
妹として見ていなかったことを伝えたら終わりだって思っていたのに、あいつは俺と向き合おうとしてくれている。
それが嬉しくて。でも、逃げてばかりの自分が情けなくて。一言だけ返事をするのが精いっぱいだった。