ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「だったら、新しい恋をすればいいんじゃない?」
「そんな簡単だったら、こんなにこじれてねーよ」
「……じゃ、私としてみる?」
騒がしい店内の音が耳に入ってこないくらい、俺は固まっていた。
「柊が仁菜子ちゃんしか見てないように、私も柊のことしか見えてないよ」
志乃が切なそうに眉を下げる。
「言うまで私の気持ちに気づかないなんて、鈍いにもほどがあるよ。柊以外の人はみーんな知ってるし」
志乃とは幼なじみで、それ以上もそれ以下でもない。
毎日一緒にいて、隣にいるのが当たり前で。志乃は俺のことを片時も離れずに見ていてくれたけど、俺はよそ見ばかりで、志乃のことを見ていなかった。
「……悪い、俺……」
「べつにいいよ。そうやって全然気づかない柊のことも可愛いとか思っちゃってたし。本当にこれじゃお母さんと変わんないよ」
志乃が静かにアイスティーを飲む。
俺が仁菜のことを話している時。
仁菜のことで不機嫌になっている時。
仁菜のことで落ち込んでいる時。
今の電話だって、志乃はどんな気持ちで俺のことを見ていたんだろうか。
「……俺、お前のこと勝手に心のブレーキにしてた。お前が越えちゃいけない線の手前にいるから、俺は立ち止まれる。そんな風に志乃のこと感じていたんだ」
志乃がいなかったら、俺はとっくに仁菜に手を出して、後悔の海に溺れていたと思う。
「柊はその一線を越えたいの?仁菜子ちゃんとどうなりたいの?」
志乃の質問に、答えられなかった。