ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「なんか時間過ぎるのあっという間だったね」
気づくと空は夕暮れになり、遊園地もそろそろ閉園になろうとしていた。
「じゃ、最後にアレ乗るか」
俺は観覧車に目を向ける。
四人乗りのゴンドラに俺たちは向かい合わせで座った。
窓からの景色がどんどん上昇していく。
春にはローズガーデン、夏にはプール、冬にはスケートもできるこの遊園地に、きっと仁菜はこれからも来るのだろう。
俺じゃない、誰かと。
「お兄ちゃん、私ね、速水くんから告白されたんだ」
密室空間で、今は仁菜の声しか聞こえない。
「俺も志乃に言われたよ。今まで気づかないなんて鈍いにもほどがあるって」
「はは、そうだよ。私でも知ってたもん」
乾いた仁菜の笑い声はすぐに消える。
「私もお兄ちゃんのことが好きだよ。でもお兄ちゃんと同じくらい大切なものがあるよ」
仁菜がまっすぐな瞳で俺のことを見ていた。
きっと仁菜も答えを探していたのだろう。
苦しくて、揺れる、気持ちの行く先を。
「俺、お前のこと妹として見られなくなってから、ずっと他のものはいらないって思ってた。想いが通じ合えるなら全部捨ててもかまわないって思ってたんだ」
でも、家族で食卓を囲んでいた時に気づいた。
俺はこの幸せを、壊したくないと。
壊れてもいいと思っていたのに、10年、20年、30年と、自分が家を離れて一人立ちしたあとも、帰る場所になっていてほしいと強く思った。
「お兄ちゃんは気づいてなかっただけで、昔からちゃんと家族を大切にしてたよ」
本当に欲しいものは迷わない。だから迷うものは欲しいものじゃないと思っていたけど違う。
迷うってことはどっちも譲れないってことだ。
大切なものは、いつだってひとつじゃない。
それを選ぶってことが、大人になるってことなのかもしれない。
「仁菜、俺はお前の笑顔が好きだ」
今日1日なにも考えずにはしゃいでいる姿を見て、ずっと守っていきたいと思った。
「だから、俺を選ばなくていい。お前のことを幸せにしてくれる人と一緒になってずっと笑っていてほしい。それが俺の願い」
「お兄ちゃん……」
仁菜の瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。
「たくさん苦しませてごめん。俺はいい兄貴じゃないけど、お前が妹でよかったよ」
観覧車がまたゆっくりと地上へと下っていく。
こうやって思えるまで、ずいぶん時間がかかってしまった。