ごめん。ぜんぶ、恋だった。


ゴンドラを降りる頃には、すっかり人もまばらになっていて、俺たちは電車に乗って最寄り駅に戻った。


「なんかお腹すいちゃったねー。晩ごはんなにかな?」

家へと続く道を仁菜と歩く。先ほど仁菜のスマホにメッセージが届いて、親父も仕事を早く終わらせて帰ってくるようだ。


「やっぱり遊園地のお土産は甘いものじゃないほうがよかったかな。でも試食したら美味しかったし、志乃ちゃんにも分けてあげようっと」
 
「仁菜」

「んー?」

振り向いた髪の毛がさらりと揺れる。


仁菜はもっと綺麗になっていくんだろう。

それでいつか俺のことなんて置いていくほど、先へ先へと進んでいく。


「好きな人として触るのは、これで最後だ」

そう言って、俺は仁菜のおでこに軽く唇を当てた。


これぐらい許されるだろう。

10年間の片想いの終止符は自分でつける。

まだ心は痛むけれど、仁菜が幸せならそれでいい。


「今日はありがとう。次は母さんと親父も誘って一緒に出掛けよう」

「うん、そうだね」

仁菜が潤んだ瞳で笑う。

そして俺たちは肩を並べて再び歩きはじめた――。

< 126 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop