ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「なんだかんだあったけど、お前は一度も俺から離れなかったな」
いつ愛想をつかれてもおかしくないのに、志乃は今も俺の隣にいる。
「油断してていいの?私けっこうモテるんだから、柊よりもいい男に出逢ってそっちにいくかもしれないよ」
俺には一切報告してこないけれど、倉木の話では志乃は何人もの男に言い寄られているらしい。
「他の男にいく前に、少しは私のことも考えてよね」
「うん。わかってる」
素直に返事をすると、志乃は驚いたように目を丸くさせていた。
「お兄ちゃん、志乃ちゃん!私、先に行くからねー!」
気づけば仁菜はずいぶんと俺たちから離れた距離にいた。パタパタと駆け足で進みながら、速水の隣へと戻る。
きみはどこまで行くんだろう。
俺はどこまで行けるだろう。
未来は長い。想像よりも、ずっと。
きみに恋をしていた時間が流れていく。
苦しくて、痛かった、きみへの気持ちは――
たしかに、ぜんぶ、恋だった。
END