ごめん。ぜんぶ、恋だった。
――『だったら、新しい恋をすればいいんじゃない?』
いつか自分が言った言葉が、ブーメランで返ってきた。
あの時、柊はなんて言ったんだっけ?たしか……。
「すみません。俺の連れなんで」
その声の先に目を向けると、なぜか柊が立っていた。
私に声をかけてきた男性は柊を見るなり、そそくさとどこかに行ってしまった。
「……たく。ぼーっとしてるからナンパなんてされんだよ」
そうだ、あの時、柊はそんな簡単だったら、こんなにこじれてないと言ったんだ。
本当に好きだから、苦しくなる。
でも恋をしたいのは他の誰かじゃない。
「私はやっぱり柊がいいよ」
柊の胸にもたれるように頭をつけた。
柊は意味がわかっていない様子だったけれど、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「友達に誘われてるんじゃなかったのかよ」
「うん。でも風邪ひいたって嘘ついちゃった。柊はバイトじゃなかったの?」
「早めに終わらせてもらってきた。まあ、そのぶん明日は午前中から教えに行かなきゃいけないけど」
そう言ったあと、柊は私の身体をそっと離した。そしてコートのポケットから正方形の箱を取り出す。
「開けてみて」
言われるがままフタを開けると、そこには腕時計が入っていた。