ごめん。ぜんぶ、恋だった。
チクチク、ジクジク、ジンジン。
ずっとわけのわからない痛みに襲われている。
それを見て見ぬふりをして何年が経ったっけ。
「仁菜」
「んー?」
呼びかけたところで、俺の唇は止まる。視線の先に見えたのは塾帰りの志乃だった。
「志乃ちゃん!」
同じく志乃の存在に気づいた仁菜は嬉しそうな声を上げて駆け寄っていく。
まるで飼い主を見つけた犬のように尻尾を振って飛び付いていた。
「はは、仁菜子ちゃん。ふたりでどこ行くの?」
「コンビニだよ!」
興奮ぎみの仁菜をなだめている志乃と目が合う。
「よう」と軽く声をかけると、「相変わらず過保護ですね」と皮肉を言われた。
仁菜は意味がわかっていない様子で首を傾げているけれど、夜道が危ないからと仁菜に付いてきた俺の心情なんて、志乃にはお見通しのようだ。
「私もコンビニに行こうかな。ついでに柊になにか買ってもらおっと」
そう言って、志乃も俺たちと同じ方向に歩きだす。
仁菜は志乃の腕を組んで、図書委員に入ったことを自分から話していた。
そんなふたりを後ろから眺めながら、さっき俺はなにを言おうとしていたんだろうと考えた。
志乃がタイミングよく来てくれてよかった。
チクチクしていた胸の痛みが落ち着いていく。
これ以上広がらないようにと、ちっぽけな願いを息と一緒に空に吐いた。