ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「ただいま」
なにごともなかったかのように自宅に帰ると、やけに玄関がすっきりとしていた。
代わりに真新しいローファーが転がっていて、「……たく」と俺はかかとを揃えて置く。
バタバタと慌ただしい音がしたかと思えばリビングのドアが勢いよく開いた。
「ちょっと、お兄ちゃん!」
靴を乱雑に脱ぐほどガサツな妹は服のセンスも欠けている。ついこの間まで中学生だったとはいえ、うさぎのプリントがされてある部屋着はないだろうと思う。
「遅いよ!私ずっとご飯食べずに待ってたんだよ?」
その言葉に、ようやく俺は両親が夜勤の日だということを思い出した。
だから玄関にある靴が少なかったのか。
「べつに先に食べてればよかっただろ」
「えーひとりで食べても美味しくないじゃん」
「今日の飯ってなに?」
「カレー。お母さんが作っておいてくれたよ」
妹は待ちきれないようで、すでにダイニングテーブルにはコップとスプーンが用意されてあって、カレーを盛ればすぐに食べられる状態にしてあった。
「早く制服脱いで下りてきてよね」
「へいへい」
気だるい返事をしながら、自分の部屋がある二階に上がった。