ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「橋本さん……!」
校舎を出て夕暮れの道を歩いていると名前を呼ばれた。振り向くと、速水くんがこちらに向かって走ってきていた。
「ど、どうしたの?」
「途中まで一緒に帰ろうよ」
そう言って、速水くんがカバンをかけ直す。
地面に映る速水くんの影は大きくて長く伸びている。それでやっぱり彼は歩幅を私に合わせてくれていた。
「橋本さんは普段はどんな本を読むの?」
「えっと、実はあんまり読まなくて……」
「そうなの?本が好きだから図書委員になったのかと思ってたよ」
図書委員会に入ったことに深い意味はなくて、瞬きする間に埋まっていく委員会決めに焦って、『わ、私もやりたいです!』と勇気を出して挙手したものが、たまたま図書だっただけのこと。
私は昔からそうだ。
自分の意志というものが薄くて、みんなが赤と言えば私も赤。右と言えば右と言うほど流されやすい。
考えてみれば、小さい頃からお母さんとふたり暮らしで、お父さんがいない寂しさを感じさせないようにとなにをするにもお母さんが隣にいた。
そして再婚して、家族が増えて。お母さんの代わりに私の隣にいてくれたのは、お兄ちゃんだった。