ごめん。ぜんぶ、恋だった。
次の日。いつものように早起きをして、制服に腕を通す。洗面所に向かって鏡を見ると、少しだけ目の下に隈ができていた。
寝つきがいいことだけが取り柄だったのに、昨日はなかなか眠れなかった。
あのあとリビングに下りて、買ってきてくれたアイスを食べたけれど、お兄ちゃんとは一度も目が合わなかった。
……私はなにか嫌なことを言ってしまったのだろうか。
昨日からずっと考えているけれど、バカな私にはちっともわからない。
「退いて」
洗面所を占領するように立っていた私のところに、お兄ちゃんが起きてきた。
「お、おはよう!」
とりあえず元気いっぱいに挨拶してみたけれど、お兄ちゃんはだるそうに歯ブラシを取って無言で歯を磨きはじめた。
お兄ちゃんが不機嫌なのは珍しいことじゃない。
だけど、やっぱり昨日の寂しそうな顔ばかりが脳裏にちらつく。
「ね、ねえ。私たち今喧嘩してる?」
「……は?」
「いや、なんか怒らせたかなと……」
気まずいのは嫌だし、理由がわからないのはもっと嫌。だから、もしもお兄ちゃんの気に触れるようなことを言ってしまったのなら謝ろうと考えていた。