ごめん。ぜんぶ、恋だった。


朝の挨拶が飛び交っている教室。1限目の授業の準備をするために机から教科書を出していると……。


「橋本さんって、こういうの使う?」

速水くんから声をかけられた。手には女性もののポーチを持っている。

「これ、なに?」

「化粧品のサンプルなんだけど」

速水くんは辺りを気にしながら、ポーチの中身を見せてくれた。そこにはリップにアイシャドウにチーク。さらにはファンデーションのサンプルがたくさん入っていた。


「これ、どうしたの?」

「姉貴が販売員やっててさ。詳しく知らないけど、化粧品ってすぐにパッケージとか流行りの色が変わるらしいから、大量に貰ってくるんだよ。んで、友達にあげていいよって今朝押し付けられたってわけ」

コスメをカバンに入れていることがバレたくないのか、速水くんはずっと小声だった。


「橋本さん、よかったらもらってよ」

「……え、私でいいの?」

ドラッグストアのコスメ売り場には行ったりするけど、自分で手に取ったことはない。


たまにテスターのものを使ってみようかなと思うことはあるけれど、鏡に映った自分を見ると似合わないという気持ちが勝ってしまって、試したこともなかった。
 
サンプルを確認すると、学生ではハードルが高いブランドもののコスメや、使う人が限定される赤いリップも入っていた。

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