ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「……でも私じゃなくて、他の人にあげたほうがいいかも」
使わないのに、私が持っていてももったいない。
「橋本さんはいらないってこと?」
「え、あ、ごめん。いらないってわけじゃないんだ。でも私、化粧ってしたことないし、やり方がわからないっていうか、してもどうせ大して変わらないかなって」
自分の悪い癖が出てしまっている。
やる前からできないと諦めて、失敗するくらいならと遠くで見ていることを選ぶ。
そういうことは高校では止めようと思っていたけど、そう簡単に人は変われない。
「だったら尚更もらってよ。サンプルだから練習に使えるだろうし」
速水くんは嫌な顔ひとつしないで、ポーチを私に渡してくれた。
「それに実は、最初から橋本さんにあげようって思って持ってきたんだ」
「え?」
「あ、化粧を強要してるわけじゃないよ?ただ、その……喜んでくれたらいいなって」
速水くんの耳がほんのりとピンク色になっている。それを見て、私まで顔が熱くなってきた。
なんだろう、この気持ち。
今まで感じたことがない、あったかくて、むず痒いような気分。
「ありがとう。うまくできるかわからないけど、練習してみるね」
そう言うと、速水くんは嬉しそうに笑った。