ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「えっと……あ、お風呂!お風呂出たよって呼びにきたんだけど寝てたから」
仲直りしにきたのに、誤魔化してしまった。
「今、何時?」
「九時過ぎだよ」
どうやらお兄ちゃんは私が部屋にいたことに驚いていただけで、髪の毛を触っていたことには気づいていないようだった。
「すごいぐっすり寝てたよ。いい夢でも見てたの?」
私は悟られないように話題を振る。
「……お前の夢」
「へ?」
「嘘だよ」
お兄ちゃんはそう言って、椅子から腰を上げた。
身体の筋をほぐすように腕を伸ばしながら、お兄ちゃんはドアのほうに向かう。
「夜更かししないで寝ろよ」
バタンとドアが閉まると同時に、階段を下りていくお兄ちゃんの足音が聞こえた。
やっぱりお兄ちゃんは……変だ。長く私とふたりきりにならないようにしてる気がする。
避けられていると思うと胸がぎゅっとなった。
なんで私はさっき、お兄ちゃんの髪の毛を触ったんだろう。
なんで気づかれなくてよかったって、ホッとしたんだろう。
考えても考えてもよくわからなかったから、私はお兄ちゃんの匂いがする部屋を静かに出た。