ごめん。ぜんぶ、恋だった。
教室に入ると、鼻の下を伸ばしている倉木が近づいてきた。
「橋本、聞いて。俺さっきあゆみちゃんのクラスに行ってきた!」
どうやら登校中に会い、わざわざクラスまで送り届けてあげたらしい。
「それで気づいたんだけど、あゆみちゃんと仁菜子ちゃんって同じクラスなんだよ。俺らのこと取り持ってくれないかな」
「自分でなんとかしろ」
倉木の提案を流しながら席に着く。
机の横にかけたカバンが重く感じるのは、中身も見ていない手紙のせいだ。不機嫌に頬杖をつく俺の前の席に倉木は座り、ペラペラと喋り続けた。
「あ、そういえば仁菜子ちゃん、隣の男と机くっつけてなんかやってたぞ」
その言葉に、ピクリと眉が反応した。
「もしかして仁菜子ちゃんの彼氏かな」
「入学して1か月で彼氏作るほどあいつは尻軽じゃねーよ」
「お前の妹ならありえるだろ」
「俺と一緒にするな」
「んだよ、そんな怖い顔すんなって」
倉木は俺の性格に慣れているので、とくに気にすることはなくスマホのゲームをやり始めた。
……本当に、俺のそういう適当な血が仁菜に入ってなくて良かったと思う。
俺はころころと女を替えているけれど、あいつはまだ男を知らない。そういう浮いた話を母さんとさえしていないから、恋もおそらくまだだと思う。
肌が黒くてスカートも似合わないような感じだったのに、膝上の制服のスカートは意外にも違和感がない。
髪の毛もだんだんと伸びてきて、風に吹かれると艶やかに揺れるようになった。
そんな仁菜のことを目に止める男はすぐに現れるだろう。
もしかしたら、すでにいるかもしれない。
ああ、また胸がジクジクしてきやがった。
こんなのはもううんざりだっていうのに、治まらない。