ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「柊。次、パソコン室だよ」
三限目の休み時間。選択授業である情報処理の教科書を持って志乃が寄ってきた。
「んー、だるい」
パソコン室は椅子の座り心地はいいけれど、机に寝るスペースがない。
「そうやって授業に前向きじゃないのに、なんで柊って頭がいいんだろ?」
「生まれ持った素質がいいんだよ」
「はいはい。行かないと置いていくからねー」
そう言いながらも志乃はひとりで行くことはしないので、仕方なく俺も教室を出た。
10分間の休み時間はどのクラスも騒がしい。とくに廊下はたくさんの生徒たちが行き来していた。
「あ……」
東校舎に向かうための渡り廊下の手前で、志乃が足を止めた。
落下防止のために高い手すりが取り付けられているこの場所は、横幅もかなりの広さがある。
天気がいい日はここで日光浴をしてる人もいたりするけれど、明らかにそんな目的ではない男女が通路の真ん中で集まって話をしていた。
「仁菜子ちゃんって西中だったんだ!俺、バスケの練習試合で行ったことあるよ」
初々しい一年生が楽しそうにしてる中に、仁菜の姿もあった。
……なんで一年が三階にいるんだよと、思いながらも、仁菜の隣にいる速水克也に目がいった。
前は〝橋本さん〟と呼んでいたのに、いつの間にか仁菜のことを名前で呼んでいる。しかもふたりの距離はとても近くて親しそうに見えた。
じわじわと、嫌な感情が湧いてくる。
俺は止めていた足を動かして通路を渡りはじめた。