ごめん。ぜんぶ、恋だった。
食事の途中で二階に上がってしまったお兄ちゃんのことを志乃ちゃんはすぐに追いかけにいった。
お兄ちゃんの部屋を開ける音はしたけれど、もちろん会話まではリビングに響いてこない。
10分、いや、20分くらいはふたりきりでいただろうか。再びリビングに戻ってきたふたりは何事もなかったように、ハンバーグの続きを食べていた。
『仁菜』
髪の毛を掬いあげられて呼ばれた名前は、優しいというより、甘かった。
少しだけドキッとして、なんでそうなったのかもよくわからなくて。
あの時のお兄ちゃんの声を思い出すと、胸がぎゅっとなる。
「大丈夫?」
上の空でいると、速水くんが心配そうな顔をしていた。
「え、ああ、ごめん!」
せっかく教えてもらっているのに、ぼんやりとしてしまった。気づけば貸出リストはまとめ終わっていて、マウスの上で重なり合っていた手も離れていた。