ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「仁菜子ちゃん」
しばらくして、やけに綺麗な人が図書室に入ってきた。それはみんなの視線を釘付けにさせている志乃ちゃんだった。
「委員会、頑張ってる?」
「うん、なんとかやってるよ」
そう答えた私の唇はふいに止まる。志乃ちゃんの後ろには気だるそうにあくびをしてるお兄ちゃんがいた。
「言っとくけど、俺じゃなくて志乃が行こうって誘ってきたんだからな」
まだなにも言ってないのに、お兄ちゃんが不機嫌に喋りだす。おそらく仕事中に邪魔しに来ないでねと前に言ったせいかもしれない。
「私たち奥のテーブルに座ってるからね。数学の課題が終わってなくてさ」
「終わってないのはお前だろ」
「手伝ってくれるってさっき言ってたじゃん」
「暇だから、ついでだよ。ついで」
ふたりはそんなやり取りをしながら、移動していった。
お兄ちゃんと志乃ちゃんはどこにいても目立つ。容姿も含めて一目置かれているから、勉強中の人たちでさえ手を止めて、ふたりのことを見ていた。
志乃ちゃんは席に着くと同時に、志カバンから課題を取り出していた。そんな中で、お兄ちゃんのことを見すぎている自分に気づいて、慌てて視線を逸らす。
……なんか、お兄ちゃんの変が私に移っている気がする。