ごめん。ぜんぶ、恋だった。



「橋本先輩と境井先輩って、やっぱりお似合いだよね」

返却された本を確認しながら、隣で速水くんが言った。


「部活やってると練習してるバレー部の女子たちの話とか聞こえてきたりするんだけど、柊先輩カッコいい、志乃先輩綺麗って、そればっかりだよ」

「でも速水くんだって噂されてるよ。連絡先だって聞かれること多いでしょ」

お兄ちゃんは聞かれても『スマホを持ってない』なんてわかりやすい嘘で断ってるみたいだけど、速水くんは嫌な顔ひとつしないで教えている。

そういう優しいところが、女の子からモテる理由のひとつなんだと思う。


「うーん、でも俺、交換してもあんまり連絡返さないよ。こう見えて昔は女子に苦手意識があったしさ」

「えーなんで?」

「自由奔放な姉貴を見て育ったからなのか、女子は怖いものっていうか、強いってイメージが抜けないんだよね」

そういえば着せ替え人形みたいなこともさせられたって言ってたし、よっぽど苦い思い出があるんだろう。


「あ、でも、仁菜子ちゃんのこと苦手じゃないよ!話しやすいし、なんていうか仁菜子ちゃんって、空気が柔らかいんだよね」

「そう……かな?」 

「うん。そうだよ」

笑うと少しだけ尖った八重歯が見えることを、私は勝手に彼のチャームポイントだと思っている。

カッコいいと可愛いが半分ずつある速水くん。

私に言わせれば、速水くんの放つ空気のほうがよっぽど柔らかい。

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