ごめん。ぜんぶ、恋だった。
「なんの役にもたたないかもしれないけど、俺で良かったら話くらいなら聞けるよ」
速水くんの優しさが胸に沁みる。
「……速水くんはさ、お姉さんのこと好き?」
私の質問が予想外すぎたのか、速水くんは驚いたように目を丸くしていた。
「う、うーん。今は姉貴も結婚してて離れて暮らしてるから年に一回くらいしか会わないけど、嫌いではないよ。まあ、子供の頃に散々弄られたことは許してないけどね」
速水くんが冗談まじりに微笑む。
「もしかして、橋本先輩のことで悩んでるの?」
「………」
私は唇をきゅっと結んで視線を下げた。
あれからお兄ちゃんは良くも悪くも変わらない。
今朝も一緒に登校したし、アイスも気が向けば私のぶんも買ってきてくれる。
なんてことないいつもの日常のはずなのに、私はあの夜のことが頭から離れない。
――『俺がお前のこと好きだからだよ』
あの時私はとっさに聞こえなかったふりをしたけれど、今思えば「なに言ってんの!」って、明るく返すこともできたんじゃないかと考える。
でも、お兄ちゃんの目が冗談じゃなくて真剣だったから、私は笑って流すこともできなかった。