ごめん。ぜんぶ、恋だった。
お兄ちゃんはスカーフを手際よく扱って、まるで見本のような左右対照の形を作っていく。
スカーフの赤色と重なっているお兄ちゃんの指先は長くて、とても綺麗に見えた。
手が心臓に近いからなのか、また鼓動が速くなってくる。
ドクン、ドクン、ドクン。
……ちょっと待ってよ、なにこれ。
『家族のことで悩んだりするのは変なことじゃないよ』
じゃあ、心臓の音がうるさいのも、変なことじゃない?
「……っ」
ドンッ!!
私はたまらずに、お兄ちゃんのことを突き飛ばしてしまった。
「仁菜?」
お兄ちゃんの顔を見ることができずに、私はそのまま走り去る。
「ハア……ハア……」
廊下は走っちゃいけませんと書かれたポスターが視界に見切れたけれど、私は少しでもお兄ちゃんから離れたかった。
理科室が見えてきたところで、呼吸を落ち着かせる。
ふいに窓越しに映っている自分の顔が目に入った。
走ったせいだけではない、顔の赤さ。
「違う、違う、これは違う」
声を出しながら自分に言い聞かせた。
お兄ちゃんがやってくれたスカーフを乱暴にほどく。
私はそれから学校が終わるまで、スカーフを付けることはなかった。