ごめん。ぜんぶ、恋だった。
それから数日が過ぎて、ふたつのことが変わった。
ひとつ目は身体だけだった女たちとの関係をすべて切ったこと。ふたつ目は……。
「え、仁菜子。今日も朝ごはん食べていかないの?」
フライ返しを片手に母さんが声をかける。
「うん。委員会の仕事があるからもう出るね」
仁菜が俺よりも先に学校にいくようになったことだ。
「委員会ってそんなに忙しいのね。柊は食べていってよ。せっかく目玉焼き作ったんだから」
「……うん」
皿には仁菜のぶんの目玉焼きとウインナーまで乗せられている。
仁菜が朝ごはんも食べずに家を先に出る理由はわかっている。
俺のことを避けているんだ。
極力話さないように、同じ空間にいないように。そのせいで視線すら重ならない。
スカーフを結んであげた時、明らかに仁菜の様子はおかしかった。
妹のスカーフに手をかけた俺を気持ち悪いと思ったのかもしれないし、嫌われたのは確実だと思う。
「ちょっと全然箸が進んでないじゃないの」
母さんが作ってくれたふたりぶんの目玉焼きはまだ綺麗な形を保っている。箸でそれを突っつくと半熟の黄身がじわじわと周りに広がった。
俺は目玉焼きをぐちゃぐちゃにして口の中に入れる。
……このモヤモヤした気持ちも、食べてしまえたら楽なのに。