ごめん。ぜんぶ、恋だった。


いつもと変わらない騒がしい教室。学校に着いた途端に、倉木が一枚の手紙を持っていた。


「なあ、これ渡してくれって頼まれた」

柊先輩へと書かれている手紙には、ハートのシールで封がされている。


「いらねえ」

俺は覇気のない返事をして、窓の外に目を向けた。


「お前ってなんでそんなんなのにモテんの?」

「さあ」

「こういうのが面倒ならさっさと境井とくっつけばいいのに」

「だからなんで志乃なんだよ。そもそも志乃にだって選ぶ権利はあるだろ」

「……いや、それマジで言ってんの?」

「は?」

理由もわからず倉木に呆れた顔をされている。ますます不機嫌になっていると、中庭では一年生がベンチに座って集まっていた。

そこに仁菜と速水の姿もある。当たり前のようにふたりは肩を並べて喋っていた。


俺のことは避けてるくせに、速水と一緒にいる仁菜は楽しそうに笑っている。

思えばあれが本来の仁菜の顔なのだ。

あいつはいつでも明るくて、喧嘩をしたって尾を引かない。だからこんな風に長く話していないのは初めてかもしれない。


……けっこう(こた)える。

ラブレターにはなんの関心もないっていうのに、仁菜のことを考えない時間はない。

< 89 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop