ごめん。ぜんぶ、恋だった。



昼休みになると、俺はいつもの体育館裏にいた。ちなみに志乃は友達と屋上で昼飯を食うそうだ。

購買で買ったパンの横には、一週前に図書室で借りた本が一冊。コロッケパンを口にくわえながら、俺はパラパラとページをめくった。


――『お兄ちゃんって、頭の中に本屋さんがあるみたいだね!』

仁菜を環境に慣れさせるために街探検へ出かけた時、自慢気に色々なことを教える俺のことを、仁菜はそんな風に言っていた。

交わした言葉や、その表情。手押し信号のボタンは私が押す!と駆けていったことまでよく覚えている。

これだけ一緒に過ごしたことを鮮明に覚えている時点で、俺は自分が自覚するずっと前から仁菜のことが大切だったのだと思う。


「期限が過ぎている本があるので、すぐに返却してください」

と、その時。仏頂面(ぶっちょうづら)をした人物がやってきた。きっと来るだろうと思っていた。


「よくここにいるってわかったな」

「教室に行ったら、くらくんが教えてくれたから」

「へえ」

話を長引かせようとしている俺とは違って、仁菜は早く用を終わらせたいという顔をしていた。


「どうせ、わざとなんでしょ」

「なにが?」

「わざと本を借りて返却日を過ぎても返しにこなかったんじゃないの?」

「そこまでわかってるなら、本の催促は速水に任せればよかっただろ」

意地悪なことを言うと、仁菜は黙ってしまった。

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