ごめん。ぜんぶ、恋だった。
志乃にあれこれと引き止められたせいで、ずいぶんと帰るのが遅くなってしまった。
仁菜は委員会だし、まだ帰ってきていないだろうと思っていたけれど、玄関には仁菜のローファーが置かれていた。
……ガチャリ。
静かにリビングのドアを開けると、仁菜は自分の特等席であるL字型ソファに足を伸ばして座っていた。
母さんたちの帰宅に合わせて帰ってくることもできただろうに、仁菜は俺とふたりきりになることを選んでくれた。
「早いじゃん」
「……竹下先生が早く鍵を閉めにきたから」
だから決して俺のために早く帰ってきたわけじゃないと言っているように聞こえた。
「飯は?」
テーブルには母さんが用意していった晩ごはんがレンジでチンをすれば食べられる状態で置かれていた。
「まだいらない」
「そっか」
ぎこちない会話をしながら、俺も仁菜と同じソファに腰を下ろした。話そうと言ったのは俺のほうなのに、なかなか言葉が出てこない。
ずっとスマホを触っている仁菜のことを見ると、この前までうっすら色をつけてる程度だった化粧が、少しだけ濃くなっている。
ブラウンのアイシャドウに、くるりと上がっている長いまつ毛。肩にかかるくらいに伸びた髪の毛の仁菜は、淡いルージュのリップがとても似合っている。
ずっと男に間違われるままでいたらよかったのに。
どんどん綺麗になっていく仁菜を見るたびに、俺は自分の心の狭さを痛感するんだ。