ごめん。ぜんぶ、恋だった。
6 ぐらぐら蹌踉めく
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同じ空間にいなければ、近くにいかなければ、私の勘違いで済むはずだった。
お兄ちゃんが帰ってこなくて三日が過ぎていた。
お母さんの話では友達の家にしばらくいると連絡がきたと言っていた。おそらく、くらくんのところだと思う。
「……あ、」
慣れてきたと思っていたアイラインを失敗した。
鏡を見ながら綿棒で懸命にぼかしている手をふと止める。まるで心の不安定さが影響しているみたいに、化粧は濃くなっていた。
やり直している時間はないので、制服に着替えて部屋を出た。でも足はたった三歩ほど進んだ先で止まる。
それは隣にあるお兄ちゃんの部屋の前だ。
自分から顔を合わせないようにしていたというのに、お兄ちゃんが帰ってこない家はとても広く感じて、お兄ちゃんがいない部屋もとても冷たく思えた。
「速水くん、本当にごめんね」
水曜日の委員会。私たちは昼休みがはじまるのと同時に図書室へと向かっていた。
「はは、謝るの何回目?」
速水くんは優しく笑ってくれるけれど、私は何度謝っても謝りきれない。
後には引けない状況だったとはいえ、お兄ちゃんに速水くんと付き合ってると嘘をついてしまうなんて……自分でも最悪だと思う。