ティアドロップ(短編)
「わっ、何っ…」
腰と肩に衝撃があり、気がつけば屋上の地面に寝転がされてる、ぜえぜえと息切れした西園寺さんが上にいた。
「馬鹿はお前だ、この馬鹿!!」
「あの、どうしてここに?」
不思議に思って訪ねると、西園寺さんの顔つきがいっそう険しくなる。
「そんなんどうでも良いだろ、死のうとすんなよ馬鹿!」
どうやら西園寺さんが烈火のごとく怒っているのは、私の行動を誤解したらしい。まだ私を押さえ付けて離さない。
「違いますって。高いところにいるとスッキリするんです。午後の仕事の前に ちょっとリフレッシュしたかっただけで」
「…嘘つき」
「いえ、あの、ホントに嘘ではなく」
「そうじゃない。幸せなヤツがこんなやり方でリフレッシュなんかするか。嘘つき」
どうやら西園寺さんが「嘘つき」だと言ったのは先週の会話のことだったらしい。嘘じゃないのに。私は幸せなのに。
だけど、
「ちょうど叱ってくれる人を探してたんです。西園寺さんが来てくれて助かりました」
「お前、本当にどうしちゃったんだよ……」
驚いたことに西園寺さんの瞳は十年前と変わらずにまっすぐだ。その瞳を見上げていると、私の方がずっと歳をとってしまった気がする。