ティアドロップ(短編)
「どうしてそんなものを今さら持ってるんです…?捨ててください、そんなもの」
「珍しく気が合うな。ちょうどそうしようと思ってたところだ」
西園寺さんはためらいもなく包装紙をバラバラに切った。無数の紙片が風に乗って飛んでいく。
「四年前、シブヤ健康フーズの初代社長は急性アレルギーを起こして意識不明の重体になった。
原因は創業記念に納品された百田屋の饅頭。一命はとりとめるも、百田屋は原材料表示説明不十分の責任を問われて廃業」
決して消えない百田屋の罪の記録を、西園寺さんはニュースでも読み上げるように静かに語った。彼は私の実家に起きたことを知ってたんだ。
「…したわけじゃないんだよな。百田屋は廃業したが、シブヤ健康フーズは一切を不問にした。あの会社にしては異例の温情措置だ。同時に、三代目社長の渋谷幸久と百田屋の一人娘が結婚。体のいい人質だな」
「違います。幸久さんが全てを丸く納めてくれたんです」
「お前に恩を着せ、百田屋に罪を擦り付けるために」
「何言ってるんですか、西園寺さんが一体何を知ってるというの!」
声を荒げても西園寺さんは小揺るぎもしなかった。「下見てみろ」と言われたのでフェンスごしに地上を眺めてみる。けれど、包装紙の欠片が屋上に落ちてる以外は何も見えない。
「…?」
西園寺さんはそのカケラを一つ取り上げてみせる。笑っているのに怒っているような、怖い印象の笑顔。
「まあ、普通に考えればあの辺りに落ちるよな。位置的には社長室の前。
さすがにこれが何か、お前の夫は忘れてないはずだ。宣戦布告にはちょうど良いだろ。」
「何を…考えて…。」
「シブヤ健康フーズの初代社長、渋谷源吉は俺の祖父でもある。ガキの頃には世話になったじいさんだ。
訳あってうちの実家と渋谷家との関りは切れてるが、渋谷幸久と俺は従兄弟なんだよ」
「そうなんですか!?」
「反吐が出ることに」
重たげに眉をしかめる西園寺さんと、幸久さんとの繋がりは全く感じられなかった。信じられない。けれど、それが事実なら言わなければならないことがある。
「お祖父様のこと、誠に申し訳ありませんでした。渋谷源吉様を、百田屋を贔屓にして下さった大事なお客様に…本当に何と申し上げて良いのか。」
「違うんだ。被害者と加害者が逆だ。
後継者争い、内輪揉めと聞けばわかるだろ?百田屋の饅頭はじいさんの好物だ。その饅頭に蕎麦粉を使わせる。創業記念品として華やかにクチナシで着色して、蕎麦とはわからない見た目にしてな。
納期の変更を繰り返して小さな和菓子店を翻弄し、その挙げ句の大量発注。無理だと断りを入れる百田屋に、いいから早く持ってこいと言う。まともな包装はおろか、必須の原材料表示もできないままだ。
だから事故は起こるべくして起こった。ヤツらの筋書き通りに」
「そんな…」
「珍しく気が合うな。ちょうどそうしようと思ってたところだ」
西園寺さんはためらいもなく包装紙をバラバラに切った。無数の紙片が風に乗って飛んでいく。
「四年前、シブヤ健康フーズの初代社長は急性アレルギーを起こして意識不明の重体になった。
原因は創業記念に納品された百田屋の饅頭。一命はとりとめるも、百田屋は原材料表示説明不十分の責任を問われて廃業」
決して消えない百田屋の罪の記録を、西園寺さんはニュースでも読み上げるように静かに語った。彼は私の実家に起きたことを知ってたんだ。
「…したわけじゃないんだよな。百田屋は廃業したが、シブヤ健康フーズは一切を不問にした。あの会社にしては異例の温情措置だ。同時に、三代目社長の渋谷幸久と百田屋の一人娘が結婚。体のいい人質だな」
「違います。幸久さんが全てを丸く納めてくれたんです」
「お前に恩を着せ、百田屋に罪を擦り付けるために」
「何言ってるんですか、西園寺さんが一体何を知ってるというの!」
声を荒げても西園寺さんは小揺るぎもしなかった。「下見てみろ」と言われたのでフェンスごしに地上を眺めてみる。けれど、包装紙の欠片が屋上に落ちてる以外は何も見えない。
「…?」
西園寺さんはそのカケラを一つ取り上げてみせる。笑っているのに怒っているような、怖い印象の笑顔。
「まあ、普通に考えればあの辺りに落ちるよな。位置的には社長室の前。
さすがにこれが何か、お前の夫は忘れてないはずだ。宣戦布告にはちょうど良いだろ。」
「何を…考えて…。」
「シブヤ健康フーズの初代社長、渋谷源吉は俺の祖父でもある。ガキの頃には世話になったじいさんだ。
訳あってうちの実家と渋谷家との関りは切れてるが、渋谷幸久と俺は従兄弟なんだよ」
「そうなんですか!?」
「反吐が出ることに」
重たげに眉をしかめる西園寺さんと、幸久さんとの繋がりは全く感じられなかった。信じられない。けれど、それが事実なら言わなければならないことがある。
「お祖父様のこと、誠に申し訳ありませんでした。渋谷源吉様を、百田屋を贔屓にして下さった大事なお客様に…本当に何と申し上げて良いのか。」
「違うんだ。被害者と加害者が逆だ。
後継者争い、内輪揉めと聞けばわかるだろ?百田屋の饅頭はじいさんの好物だ。その饅頭に蕎麦粉を使わせる。創業記念品として華やかにクチナシで着色して、蕎麦とはわからない見た目にしてな。
納期の変更を繰り返して小さな和菓子店を翻弄し、その挙げ句の大量発注。無理だと断りを入れる百田屋に、いいから早く持ってこいと言う。まともな包装はおろか、必須の原材料表示もできないままだ。
だから事故は起こるべくして起こった。ヤツらの筋書き通りに」
「そんな…」