ティアドロップ(短編)
久しぶりに合う後輩として相応しい態度はどんなだろう。私は上手くできてる?
西園寺さんはいつも意地悪で、私のどんくさい性格をからかう。私達はそういう間柄だったはず。
「西園寺さんのおかげで、こんな私でも幸せになれました」
西園寺さんは目を伏せて、次に目が合った時には年相応の大人びた笑顔になっていた。
「そっか、末永くオシアワセに」
「…ありがとうございます」
それだけ言うと背を向けて立ち去る。十年ぶりに会うのに、あまりにもあっさりとした別れだ。
行かないで
叫びを出すのを堪えて息を吐くと、彼がもう一度振り返った。
「今の名前は?」
「渋谷 時乃です」
「シブヤ…シブヤトキノ」
語感を確かめるように西園寺さんが私の名前を繰り返す。シブヤ、という苗字はいつまでたっても馴染めない。
「シブヤさん、手がカサカサ。旦那とずっとラブラブでいたいなら忘れずにケアしとけよ」
西園寺さんらしい意地悪な言葉。恥ずかしいのと悔しい気持ちが入り交じって両手を隠すように強く握る。
「それはそれは、ありがたーいアドバイスありがとうございますっ
この歳になれば冬はかさついても仕方ないんですよ!」
思い切り睨んで文句を言うと、西園寺さんはニヤっと笑って車に乗り、それきりドアが閉じられる。
彼の車が見えなくなると、崩れ落ちるように座ってしまった。ケアが行き届いてないのは手だけじゃない。肌だって髪だって十年前とは違う。以前よりさらに魅力的になった西園寺さんを前に、こんなふうに歳を重ねた姿を晒してしまうなんて。
「記憶の中だけでも、若いままでいたかったな……」
だけど、それでも。
もう一度会えたことが嬉しかった。見えない宝物を包むように、彼の手が触れた左手をいつまでも胸の前で抱えていた。
西園寺さんはいつも意地悪で、私のどんくさい性格をからかう。私達はそういう間柄だったはず。
「西園寺さんのおかげで、こんな私でも幸せになれました」
西園寺さんは目を伏せて、次に目が合った時には年相応の大人びた笑顔になっていた。
「そっか、末永くオシアワセに」
「…ありがとうございます」
それだけ言うと背を向けて立ち去る。十年ぶりに会うのに、あまりにもあっさりとした別れだ。
行かないで
叫びを出すのを堪えて息を吐くと、彼がもう一度振り返った。
「今の名前は?」
「渋谷 時乃です」
「シブヤ…シブヤトキノ」
語感を確かめるように西園寺さんが私の名前を繰り返す。シブヤ、という苗字はいつまでたっても馴染めない。
「シブヤさん、手がカサカサ。旦那とずっとラブラブでいたいなら忘れずにケアしとけよ」
西園寺さんらしい意地悪な言葉。恥ずかしいのと悔しい気持ちが入り交じって両手を隠すように強く握る。
「それはそれは、ありがたーいアドバイスありがとうございますっ
この歳になれば冬はかさついても仕方ないんですよ!」
思い切り睨んで文句を言うと、西園寺さんはニヤっと笑って車に乗り、それきりドアが閉じられる。
彼の車が見えなくなると、崩れ落ちるように座ってしまった。ケアが行き届いてないのは手だけじゃない。肌だって髪だって十年前とは違う。以前よりさらに魅力的になった西園寺さんを前に、こんなふうに歳を重ねた姿を晒してしまうなんて。
「記憶の中だけでも、若いままでいたかったな……」
だけど、それでも。
もう一度会えたことが嬉しかった。見えない宝物を包むように、彼の手が触れた左手をいつまでも胸の前で抱えていた。