ご利益チョコレート
1


定時も過ぎた資料庫の隅、要らなくなった書類を一応5年保存だからとせっせと棚に収納していたわたしの耳に飛び込んできた男女の会話。



「ホンマに籍入れるだけでええのか?女は結婚式に色々夢があるって言うやろ」


「ははっ、夢?わたしが?ないない。それでなくても来月決算で忙しいのに、そんなの考えてる時間が惜しいわ」


どちらもわたしのよく知る声だ。


「まあ、志保子がそれで納得してるんならええけど」


「納得してるわよ。それより俊佑(しゅんすけ)、来週末新居の荷物の搬入だけお願いね」


「わかってる、ちゃんと言われた通りしとく」


仕事中には絶対ないファーストネームで呼び合う二人。




入籍?


新居?



思わず叫びだしてしまいそうになる口を両手でしっかり押さえる。


偶然知ってしまった、先輩二人の秘密。


同期の二人。


大学も同じ二人。


何でもポンポン言い合って、仕事上でもライバルで。


二人、付き合ってるんと違うの?と聞かれるたび、笑顔でいつも否定していた。



そうか、


そうやったんや。



やっぱり付き合ってたんだ。



結婚するんだ。



足元の床がガラガラと崩れ落ちそうな気がする。


頭が真っ白になる。



思わずその場でしゃがみこんでしまった。

< 1 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop