ご利益チョコレート
ドアを開け、先に松葉杖を下ろして車の脇に立て掛けて、わたしを所謂お姫様抱っこで抱きおろす。
目線が高くて少し新鮮。
「凄いねー、伊吹。軽々やね」
「おう、ゴリラやからな、しふの1人くらい軽いもんや」
笑いながら歩道に降ろしてくれる。
持つべきものは力持ちな兄だな、このままオフィスまで運んでもらいたいくらいだ、なんて考えていたら声をかけられた。
「……西林?」
よりによって。
……という言葉はこういう時に使うのだろう。
呟きに近い声が後方から発せられたのをわたしの耳はしっかり捉えた。
「ほな、しふ、帰りはタクシーで帰りや。オレはデートやしな」
伊吹が運転席に戻り、車を発進させる。
伊吹は気が付かなかったみたいだ。
足音が近付き、真横で止まる。
「……お前、それどうした?」
心の準備をする時間が欲しかった。
フラれる覚悟はなんとかできているけれど、こんな朝から会いたくなかった。かと言ってこの足では逃げるわけにもいかない。